緒論
はじめに
野球などのスポーツにおいてデータを活用し勝率向上に生かすことは、近年では一般的となっている。いわゆるESports的な分野でも、RTSやFPSにおいてデータの活用は進められているようである(参考)。スマブラの対戦データを解析することは、最近のスマブラ競技シーンの盛り上がりもあって重要性は高い。しかし、スマブラは自由度が非常に高く攻守が目まぐるしく入れ替わるゲーム性のため、データを解析し有用なデータを抽出するのは非常に難しい現状がある。ゲーム内に蓄積される定量的なデータは%とストック数しかなく、解析する切り口が難しい。
先行研究
世界スマブラレポ (2016)では、クラウドの上位プレイヤーに対して撃墜技の比率について調べ、プレイヤーによって比率に大きく違いがあることを示し、一般に適度な数の撃墜方法を織り交ぜることで相手に予測されにくくかつ自分の中で一貫した戦略が立てやすいというのは言えるのではないだろうかと述べている。
Shogun(2018)は、フォックスについて、対ゼロスーツサムス、ロゼッタ&チコにおける撃墜技の比率と、撃墜状況の比率の調査を行った。そのなかで、上位プレイヤーとそうでないプレイヤーに分けた上で撃墜手段にはどのような差があるかに注目するのもよいのではないかと提案している。
Ujiko(2018a)では、Shogun(2018)を参考に、MkLeoのマルスについて、対シーク、ベヨネッタにおける撃墜技の比率と、撃墜状況の比率の調査を行い、撃墜技のバランスと勝率の関係を定量的に評価することを試みた。その結果、勝率が高いほうが撃墜技のバランスが良いという結果になったが、勝率の差の小ささとサンプル数の少なさについては疑問が残る。
Ujiko(2018b)では、撃墜技の比率のプレイヤーによる違い(最上位プレイヤーVoidと上位プレイヤーKarnaの違い)を調べた。その結果、Ujiko(2018a)と同様に勝率が高いほう(Void)が撃墜技のバランスが良い結果となった。
本研究の目的
筆者はこれまで撃墜技に注目して研究を進めてきたが、撃墜という事象はサンプル数が少なく統計的な解析が難しいという問題があった。そこで今回は視点を変えて、サンプルが多く取れると予想される一つの技の振り方に注目してみることにした。中でも最近世間を騒がせているMkLeoアイクの空Nを取り上げ、空Nを振るまでの行動と、空Nを振った後との行動についてデータを収集し解析を行った。
こんちには、僕は実質MkLeoです。
データ収集条件
使用した動画
解析対象
今回収集したデータは以下のとおりである。
・空Nの振り方(小ジャンプから、大ジャンプから、2段ジャンプから、台降りから、着地暴れ)
・空Nを振った結果(当たったか、外れたか、ガードされたか)
・空Nをガードされた、もしくは外してから相手にリターンを取られたかどうか
・空Nをガードされた後の行動(暴れ、ジャンプ、回避など)
なぜこれらのデータを選択したかは、筆者が何となく重要だと思ったからでしかない。有識者からのアドバイスを募集中である。なお、今回データを収集した空Nは、着地空Nのみを対象としている。また、空Nの発生をつぶされた場合、明らかに当てる意思のない空Nは除外している。
僕はMkLeoよりも一生空Nを振っている自信がありますが、何も考えていないので当てようともしていません。実は優しいんです。
結果と考察
空Nの振り方
図.1に、空Nの振り方の内訳を示す。図.1より、空Nの一番多い振り方は、大ジャンプからであることがわかる。また、小ジャンプからと大ジャンプからとそれ以外で、空Nをバランスよく振っていることがわかる。
空Nを振った結果
図.2に、空Nを振った結果の内訳を示す。グラフ中の有料とは、リターンを取られたこと、無料とはリターンを取られなかったことを表す。図.2より、ヒットした場合とガードされた場合の比率はほとんど変わらなかったことがわかる。外れた場合の比率は他の2つに比べ少し高かった。また、空Nを振ってリターンを取られた確率は、わずか8%(図中の有料の合計%)だった。
空Nをガードされてからの行動
図.3に、空Nをガードされてからの行動の内訳を示す。図.3より、空Nをガードさせてからの行動の中で一番多いのはガードであることがわかる。
考察
空Nのヒット率が高いのはなぜか?
図.2より空Nのヒット率は31%と、筆者のイメージより高かった。明らかに当てる気のない空Nを除外しているとはいえ、MkLeoの空Nのヒット率は高いといっていいだろう。一つの要因は、空Nの振り方のバランスがいいことだろう(図.1)。小ジャンプから、大ジャンプから、それ以外からの3つのパターンがバランスよく分散されている。対戦相手は空Nに対処するタイミングがとりずらくなり、空Nに当たってしまう確率は高くなるだろう。もちろんこれ以外にも、同じ大ジャンプの中でも細かい空Nのタイミングの違いや、すかし行動の影響もあることは間違いない。
大ジャンプからの空Nのヒット率が高いのはなぜか?
ヒット率が高い要因を、図.1の空Nの振り方からさらに考察するために、ヒットした空Nの振り方の内訳をみてみた(図.4)。図.4から、ヒットした空Nの半分以上が大ジャンプから振られていることがわかる。図.1の空N全体の内訳では大ジャンプから振られた空Nは41%なのに対し、図.4のヒットした空Nの内訳では52%と11%も増えているのは非常に興味深い。要するに、大ジャンプからの空Nはヒット率が高く、小ジャンプからの空Nはヒット率が低いということだ。この理由を考察するのは非常に難しいが、理由を考えてみた。
理由①:MkLeoの意図の問題
小ジャンプからの空Nは牽制目的で振っていて、そもそも当てる気がないのではないかということである。小ジャンプからはそもそも当てに行くのが難しいため、置き空Nが多くなるのは自然だろう。大ジャンプからの空Nを本命に振っていて、小ジャンプからの空Nは当たればラッキー的な振り方なのかもしれない。事実、小ジャンプから振った空Nが外れた確率は大ジャンプに比べて明らかに高い(図.5)。また、大ジャンプからのほうが相手の攻撃をすかしやすく、すかしを確認してから差し返しとして空Nを振れるのもヒット率が高いことに影響していると推測できる。
理由②:数に入っていない振ろうとした空Nが隠れている
今回のデータの収集には空Nの発生をつぶされた場合は数に入れていない。そのため、対空などによりジャンプをつぶされ、空Nを振ろうとしたが空Nが発生しなかった場合が母数に入っていない(これを母数に入れるかどうかの問題は非常に奥が深いので深堀りしない)。大ジャンプのほうが反応時間の猶予があるので対空される確率は高い。よって大ジャンプのほうが小ジャンプに比べて、カウントされなかった空Nが多いと考えるのは自然だ。結果として、見かけ上のヒット率が大ジャンプのほうが高くなっているのではないかという話だ。
リターンがとられる確率が低いのはなぜか?
空Nを振ってリターンを取られた確率は、わずか8%だった(図.2)。1つめの要因は、当たり前だがそもそも空Nが非常にリスクの低い技だからということである。ガードされたところで不利フレームは少なく、リーチも長いため反確をとるのは困難を極める。2つめの要因として考えらえるのは、MkLeoが空Nをガードされてからの行動をバランスよく散らしていることである(図.3)。基本的には低リスクな防御行動であるガード(37%)を選択してるが、リターンを取りに行くジャンプも29%と多めに選択しており、相手は対処しづらいだろう。対戦相手は空Nをガードしてからの読み合いからリターンを取ろうとしても、MkLeoの選択肢のバランスが絶妙なためリターンを取りに行きにくい。
結論:空Nを振らせてはいけない。
まとめ
本研究より、以下のことがわかった。
・MkLeoは空Nの振り方を、大ジャンプから、小ジャンプから、それ以外の3パターンをバランスよく織り交ぜていた。
・空Nのヒット率は31%で、大ジャンプから空Nを振った時が一番ヒット率が高かった。
・空Nがリターンを取られる確率はわずか8%だった。
所感
今回はこれまでの撃墜技から視点を変え、一つの技に注目してデータ収集と考察を行ってみた。実験的な取り組みとして行ってみたが、意外にも面白い傾向を見ることができた。MkLeoの空Nは、振ってさえしまえばリターンはわずか8%の確率でしかとられていないのは衝撃だった。Atelier(2019) で述べられているように、対剣キャラは飛びを落とすことが重要になりそうだ。
キャラの主要となる技の振り方を、最上位勢をサンプルに徹底的に分析するのは、データも取りやすく解析も簡単で、キャラ対策にも人対策にも非常に有用になると感じた。しかしこれらのデータを対策以外の根本的なスマブラの上手さにつなげるのは難しいのかもしれない。結局は解析しただけでは自分は強くはならず、強くなるためにはなぜこのような技の振り方、行動をしているのかを理解し自分の頭に落とし込む必要があるだろう。要するに機械的に解析するだけではなく、頭を使って考察しなけらばならない。
MkLeoは経験と本能から最良の選択肢を取っている天才かもしれないが、自分が凡人であると自覚している人は一度最上位勢の技の振り方を分析して意図を考察してみると、よりスマブラが強くなるのではないだろうか。本人に聞くのが一番早いが、自分で考えると次に応用が利くはずだ。
次回はほかのプレイヤーのアイクの空Nとの違いをテーマにする予定。また、今後技の振り方を定量的に議論するために、パラメータを探して技の振り方の指標を定義していきたい。ただデータを並べるだけではつまらない…。
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